おか目八目 平成19年1月1日 「いじめの経験から」 |
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★すさまじい軍隊でのいじめ 昨今、毎日のように学校におけるいじめなどによって、こどもの自殺などの暗いニュースが報道されています。さらに不登校者やリストカットなどを入れると、放置できない数はこの何倍、何十倍かです。 ところで昔はいじめがなかったか考えますと、そうではありません。集団生活の中ではどうやらいじめはつきものです。 先日、テレビを見ていましたら、チンバンジーの世界で若いオスが自分の力を誇示しようと、若いメスをいじめていました。大きい母親のメスが反撃して若いオスを撃退。どうにも収まらないときは、群れのボスがやってきて乱暴する若いオスを力ずくで脅かし、騒ぎが落着しました。 私の海軍での生活は2年間に過ぎませんが、その間いじめの現場に何度も直面し、色んな手段を使って殆どを解決した経験があります。 ★弱者のコンプレックスと嫉妬 昭和19年の7月、すでに海軍少尉となっていた私は、鹿児島県の出水海軍航空隊国分分遣隊(後に航空隊に昇格)に教官兼分隊士として着任しました。そこで、39期飛行練習生(甲飛13期予科練出身)の先任分隊士として下士官教員と練習生とともに兵舎の教官室で起居しておりました。 その兵舎には所属の5分隊の練習生が約120名、下士官教員(一部兵長も)10数名が同居でした。ところがこの下士官教員の中に程度の悪い(俗にジャくる)のが何人かいました。 飛行機の士官搭乗員になるには兵学校、予備学生のコースですが、一般の下士官・兵には次の出身コースがありました。 1.甲種飛行予科練習生(中学3年修了で昇進が早い) 2.乙種飛行予科練習生(中学2年修了で甲種に比し昇進が遅い)以上が歌にもあるスマートな「七ツ釦に桜と錨」組です。 3.丙種飛行練習生(他の兵科から飛行科へ転科したため軍歴が長くても階級が低く、服装は水兵服) 4.予備練習生(5年制中等学校出身、1年で下士官に昇進) 私たちの分隊での下士官・兵教員には1の甲飛出身は居らず、乙飛と丙飛が殆ど。その彼らが将来昇進が早くなる甲種予科練出身の飛行練習生を訓練していたのでした。つまり、陸海軍ともによくある古兵が新兵をいじめる悪習に加え、昇進への嫉妬がからんでいたのでした。 ★いじめの数々 いじめともとれる訓練に先ず「吊り床下ろし」(ハンモック)と「吊り床上げ」があります。各班ごとに何十秒でこれができるかの競い合いです。これは訓練としてある程度までは許容できます。 しかし、次のいくつかは許されません。 「うぐいすの谷渡り」がその一つです。ホーホケキョーと叫びながら、長椅子を跨ぎ、次は食卓の下をくぐる罰直の繰り返しです。また「自爆」というのがあり、ブーンとか叫びながら壁か柱に体ごとぶつける体罰で、当りが弱いと何回でもやり直しをさせたようでした。 中でも一番にすさまじかったのはバッターでした。これは「軍人精神注入棒」という直径7〜8cm×長さ150cmくらいの棍棒で前屈みにさせた尻をぶっ叩く体罰でした。この棍棒の中には「国分飛練は鬼より怖い○○○○の声がする」と書き磨かれたものもあり、これは早速押収しました。 こうした体罰は私が外出して居らない時を見計らってやっていました。この悪習を断つために私は足掛け3ヵ月、外泊をせずに兵舎に泊り込みました。従兵とともに兵舎の隅々まで探し、「軍人精神注入棒」を見つけ次第押収し、何度も士官浴場の薪に使いました。 もちろん「練習生はお国のために一日でも早く一人前の搭乗員になりたいと願い努力している」「バッターで殴られてからといって精神も技量も決して向上はしない、萎縮するだけだ」「こうした姿を彼等の父兄に見せることができるか」など、訓育面でも指導を繰り返しました。 ★いじめ防止は徹底的に 当時の国分海軍航空隊の副長兼飛行長は武田新太郎少佐でした。彼は高等商船学校出の前線帰りの艦爆乗りで豪放闊達。しかし体罰に関してはきわめて峻厳で、「違反者のないよう徹底しろ」と厳命を下しました。 そのため違反した2名の教員は搭乗配置から降ろし(パイロットとしてこれほど屈辱的でつらいものはない)、山間部の十三塚原(今の鹿児島空港の地)に2ヶ月間、炭焼き作業をさせました。そして許した後も改悛したか観察のため、士官室の従兵として飯つぎなどをさせたのでした。 教員たちの中には酒席において時々からんでくる下士官がいました。「分隊士よりも私の方が味噌汁の数は上ですよ」(軍歴が長い意味)に対し、「何言うとるか、オレは味噌汁が好きで、士官室では何杯もお代わりしてるんだ」。「編隊飛行で後ろから尾翼に食いつくかも知れませんぜ」に「それくらいの度胸があったら食いついてみろ」など、士官として彼らの一枚も二枚も上級の毅然たる態度で押し通しました。軍隊に限らず指導者たる者は部下に弱気では示しがつきません。 ★自信を持たせる 飛行訓練には普通は一人の教官・教員が5人の練習生を受け持ち、離着陸から始まる訓練を行います。当初5〜7時間くらい同乗した段階で普通は単独飛行をさせるのです。これには技量もさることながら、空中での自信と情緒の安定が必要です。 実は飛行訓練を始めてほぼ2ヵ月がたち、半分くらいの練習生が単独飛行を終えかけた頃、どうしてもその技量に達しない練習生がでてきます。この遅れた練習生の訓練担当を先任士官であった私が引き受け上ることになり、急に新たな5名を受け持ちました。 その中の一人のT練習生、実は彼は以前いじめに合い、居住区から雲隠れをした前科があったのです。幸い隊外に脱出をしなかったので内部での処理ですますことが出来ましたが、精神的にかなり弱いところがあり、そのため単独飛行が遅れていたのです。 航空機の操縦で難しいのは着陸ですが、私は彼に「地上5メートルのところで左右のフットバー(方向舵)を頻繁に踏み込め、そうしたら着陸時に機体を回されないから」と教えました。彼は指示した通り、尾翼の方向舵を左右に頻繁に振りながら、単独飛行の着陸を無事に果たしホッとしました。これを見ていた藤貞飛行隊長から「粕井分隊士、あの着陸は邪道だよ」と言われましたが、今から考えても自信づけになったと思います。 その後の彼はメキメキ操縦の技量を向上させ、特攻隊員の選考時には私のペア5人中からの選抜4人の一員になりました。 私の長男は中学時代は特別に体が小さく、よくいじめの対象にされたらしいです。護身術の合気道をやることをすすめましたが、いつの間にか攻撃もできる少林寺拳法に鞍替えしていました。 いじめに対し、何か本人が誇れる自信のあるものを伸ばさせるとか、暴力にも時にはやり返すくらいの気構えが必要と思います。対策としては、 1.指導者は毅然たる態度で弱い者いじめを止めさす(臭いものに蓋をする弥縫策は最低) 2.各人が他より優れたもの、自信あるものを持たせる(仕事、勉学、体育、クラブ活動など) 3.一つ殴るられたら三つ殴り返すくらいの気構えを持たせる(社会へ出てからのいじめはもっとひどい) 4.自然(山・川・海)、草木、動物(ペットも)、芸術などへの関心を高め、豊な情緒が育つ環境をつくる などが大切と私は思います。 ( エルダー 粕 井 貫 次 ) |
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